名古屋高等裁判所 昭和48年(ネ)623号 判決 1974年5月16日
控訴人・附帯被控訴人(被告)
名古屋タクシー株式会社
被控訴人・附帯控訴人(原告)
安田三郎こと孫永泰
主文
原判決を次のとおり変更する。
控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し金二〇〇万七、六六一円及び内金一八五万七、六六一円に対する昭和四三年五月二日から内金一五万円に対する昭和四八年九月六日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求並びに本件附帯控訴を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
本判決中被控訴人(附帯控訴人)の勝訴部分は仮に執行することができる。
事実
控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という)訴訟代理人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めるとともに、附帯控訴に対し、「本件附帯控訴を棄却する。」との判決を求めた。
被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)訴訟代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めるとともに、附帯控訴として、「原判決を次のとおり変更する。控訴人は被控訴人に対し金四一一万一八〇〇円及び内金三八一万一八〇〇円に対する昭和四三年五月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求めた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に訂正、付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(訂正部分)
原判決三枚目裏終から三行目に二二・五ケ月とあるを二五・五ケ月と、同四枚目表終から二行目に22・5とあるを25・5とそれぞれ訂正する。
(控訴代理人の主張)
一 原判決が控訴人の消滅時効の主張を排斥したのは失当である。すなわち、本件事故による損害は大別して財産上の損害と精神上の損害の二個であると解すべきところ、原判決はこれを一個であるとして本件損害賠償義務の全部について時効の中断を認めたのは失当であり、また、控訴人か被控訴人の治療費を病院へ支払つたのは、本件事故の損害賠償義務者である訴外服部のため立替払をしたものにすぎず、控訴人は後日同訴外人から右金員の償還を受けているから、原判決か右支払を捉えて控訴人が本件損害賠償義務を承認したものと認めたのも失当たるを免れない。
二 原判決が本件事故につき訴外鈴木に過失があるとしたのは失当である。すなわち、訴外鈴木運転のタクシー(以下、単にタクシーと略称することもある。)の進行道路の幅員は訴外服部運転のライトバン(以下、単にライトバンと略称することもある。)の進行道路の幅員よりも明らかに広いのであるから、タクシーに本件交差点の優先通行権が認められるので、訴外鈴木には徐行義務はなかつた(最高裁判所昭和四四年(オ)第二八九号同四五年一月二七日第三小法廷判決・民集第二四巻第一号五六頁参照)。しかも、本件交差点の北方道路は北方への進入が禁止されているところ、訴外服部はこれを無視して北進すべく本件交差点に進入して来たものであるか。訴外鈴木としては、訴外服部が交通法規を守ることを信頼して運転すれば足り、あえて交通法規に違反して進行して来ることまで予想し、右側方に対する安全を確認して運転すべき義務はなかつたものであるから(最高裁判所昭和四〇年(あ)第一七五二号同四一年一二月二〇日第三小法廷判決・刑集第二〇巻第一〇号一二一二頁参照)、本件事故の発生については、訴外鈴木に過失はなかつた。
三 原判決の休業損害及び逸失利益の認定は、不当である。すなわち、
(一) 休業損害はあくまで現実の収入減によるべきところ、原判決か被控訴人の休業損害を全産業男子労働者の平均給与によつて算定したことは、スタンドバーの経営者ないし金融業者で労働者とは言えない被控訴人を労働者として扱つている点及び休業損害を抽象的ないわゆる労働能力喪失説に依拠している点で不当である。
また、逸失利益についても、労働者ではない被控訴人については労働能力喪失説によるべきではないから、原判決の判断は不当である。
(二) 仮に休業損害ありと抽象的に想定しえたとしても、被控訴人の職業、傷害の程度及び内容、後遺症を勘案すると、原判決の補償期間は長期に失している。せいぜい入院日数及び加療実日数分だけ認めれば足りる。
(被控訴代理人の主張)
一 控訴人の主張はすべて争う。すなわち、
(一) 本件事故による損害賠償請求権が一体であることは最高裁判所昭和四三年(オ)第九四三号同四八年四月五日第一小法廷判決(判例タイムズ二九九号二九八頁)によつて是略されているところである。また、控訴人が本件損害賠償債務を認めて被控訴人の治療費を病院に支払つたものであることは、本件訴訟が提起される以前の被控訴人と控訴人との示談交渉において、控訴人が被控訴人に対し一〇〇万円を支払う旨の提案をしたことがある点より見ても明らかである。
(二) 本件交差点における南方からの車両は左折または右折ができるのであり、訴外鈴木には徐行義務及び右方の安全確認義務があつたから、本件は信頼の原則が適用される場合ではない。なお、信頼の原則は運転者に対する注意義務を緩和し、刑事責任を減ずるに当つて考慮すべき理論であり、損害の公平負担を目的とする民事責任につき同様に論ずるのは失当である。
(三) 本件のような場合に、原判決認定のような統計数値を使用して休業損害及び逸失利益を算出することは実務上認められているところである。
二 被控訴人は本件事故による損害賠償責任につき早期解決を希望したのに、控訴人の不誠意な態度によつて解決が延引されて来たこと、被控訴人は本件事故により多大な出費及び休業損害等を余儀なくされたうえ、現在も後遺症に悩まされていること等を斟酌すると、原判決が認定した慰藉料額四〇万円は低額にすぎ不相当である。
(証拠)〔略〕
理由
一 被控訴人主張の日時場所において訴外鈴木運転のタクシーと訴外服部運転のライトバンとが衝突事故を起したこと、控訴人は右タクシーを自己のために運行の用に供していたもので、右事故は訴外鈴木が控訴人の業務として右タクシーを運行中に惹き起したものであることは当事者間に争いがない。
二 右認定事実によれば、控訴人は本件事故につき自賠法三条本文の責任主体と認められるところ、控訴人は同条但書の免責の抗弁を主張するので判断する。
(一) まず、本件事故の発生原因及び訴外鈴木に過失があつたか否かにつき検討するに、〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。
(1) 本件事故現場は、別紙図面のとおり、天王崎橋方面(西)から伏見通り(東)へ通じる車道幅員九メートル、歩道幅員六・八メートル(片側三・四メートル)の歩車道の区別のある舗装道路と、若宮大通り(南)から広小路通り(北)へ通じる幅員九・八メートルの歩車道の区別のない舗装道路とが交差する交差点内で、衝突地点の位置関係は同図面のとおりである。
(2) 本件交差点は、交通整理が行なわれておらず、左右の見とおしもきかないが、一時停止の道路標識はなかつた。なお、本件事故当時、本件交差点から北方広小路通りに至るまでは午前八時から午後一二時までの間自動車及び原動機付自転車の北進は禁止されていて、本件交差点の西北隅には車両進入禁止の道路標識が設置されていた。
(3) 訴外服部は、ライトバンを運転して時速四五キロメートルの速度で前記南北に通じる道路を南方から北進して来て、本件交差点を通過しようとし、本件交差点に進入する直前の別紙図面<1>点附近で速度を時速約二〇キロメートルに減速したが、通行人に気を取られて脇見運転をしていたため、前記車両進入禁止の道路標識にも気付かず、本件交差点を北進しようとし、また、前記東西に通じる道路を西方から本件交差点へ進入して来る訴外鈴木運転のタクシーの発見も遅れ、僅か五メートル位左前に至つてようやく発見したので、急停車等の措置をとるいとまもなく衝突した。
(4) 一方、訴外鈴木は、乗客である被控訴人をのせたタクシーを運転して時速四〇キロメートルを上廻る速度で本件交差点にさしかかつた際、右方道路から本件交差点に進入しようとする訴外服部運転のライトバンがあるのをその前照灯の明りで発見したが、前記の如く本件交差点より北方は進入禁止の規制がなされているので、ライトバンは交差点を通過して北進することはないとの考えから、ライトバンの動静に注意することなく、前記と同一速度のまま本件交差点に進入したため、ライトバンが北進して来るのに気付いたときはすでに遅く、急停車等の措置をとるいとまもなく衝突した。
以上の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。
(二) 前記(一)の認定事実によれば、本件交差点は交通整理の行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかないものであるが、東西に通じる道路の幅員は南北に通じる道路の幅員よりも明らかに広いものと認められる。また、両車の速度及び衝突地点から見ると、ライトバンが本件交差点の南端に達したときには、タクシーは本件交差点の西端より一〇メートル内外の距離に迫つており、ライトバンがそのまま交差点を進行すれば、広路から本件交差点に進入しようとするタクシーの進路を妨げる状況にあつたものと認められる。従つて、訴外服部は、道交法三六条二項、四二条により徐行すべきは勿論、同法三六条三項により直ちに急停車の措置をとるなどしてタクシーの進行を妨げないようにすべき義務があつたのに、これらの義務を怠つたため、本件事故が発生したものである。
一方、訴外鈴木は、広路を進行していたものとして本件交差点の優先通行権が認められるので、同法四二条所定の徐行義務は負わないものと解するのが相当である(前掲最高裁判所昭和四五年一月二七日第三小法廷判決参照)。しかし、車両が、本件のように交通整理が行なわれておらずしかも左右の見とおしもきかないうえに交差道路に一時停止の道路標識もない交差点に進入するには、優先通行権があり、徐行義務はなくても、交差道路からの車両の有無及びその動静に注意して交差点に進入すべき義務は免れないものというべく、相手方の車両の動静により事故発生の危険があるときは、減速、停止等の機宜の措置をとり、事故を回避すべき義務があるというべきである。しかして、前記(一)の認定事実によれば、本件交差点は前記認定のような北進禁止の交通規制はあつたが、南方道路から進行して来て右折することはできたものであり、訴外鈴木が本件交差点にさしかかつた際、訴外服部運転のライトバンが右(南)方道路から本件交差点に進入して来たものであるから、訴外鈴木としては、ライトバンの動静に注意すべきであつたのに、訴外鈴木は右方道路から本件交差点に進入しようとしているライトバンがあることをその前照灯の明りで気付いておりながら、北進禁止の交通規制のあることに安心し、それ以上ライトバンの動静に注意することなく本件交差点に進入したものであるから、訴外鈴木は右注意義務を怠つたものというべく、そして、もし訴外鈴木において、右注意を払つておれば、減速、停止等の機宜の措置をとり、衝突を回避することができたものと認められるのに、右注意義務を怠つたため、ライトバンの進行に気付くのが遅れ、ひいては減速、停止等の事故発生防止措置をとるべき義務を尽すことができなかつたことが本件事故発生の一因をなしているものと認められるので、本件事故の発生については、訴外鈴木の側にも過失があつたものというべきである。従つて、本件事故の発生について、訴外鈴木の側にいわゆる信頼の原則を適用する余地はなく、この点に関する控訴人の主張は採用することができない。
(三) そうすれば、控訴人の免責の抗弁はその余の点を判断するまでもなく理由がないから採用することができない。従つて、控訴人は自賠法三条により被控訴人が本件事故によつて被つた損害を賠償する義務がある。
三 そこで進んで、被控訴人が本件事故によつて被つた損害につき判断する。
(一) 〔証拠略〕によれば、被控訴人の受傷の内容、治療の経過及び後遺症等につき、被控訴人が請求原因三項において主張するような事実が認められる。
(二) 入院中の雑費及び附添費について
入院中の雑費については金七、四〇〇円、附添費については金三万七、〇〇〇円をもつて損害と認める。その理由は、原判決理由に説示のとおりであるから、これを引用する。
(三) 休業損害について
被控訴人は本件事故による受傷のため入通院期間中の昭和四五年六月一七日まで稼働することができなかつたと主張するので検討するに、前記(一)に掲記の各証拠によつて認められる被控訴人の受傷の部位及び内容、治療内容及び経過等に鑑みると、被控訴人の受傷はいわゆる外傷性頸部症候群であり、その治療に当たつたものと推認されるところ、外傷性頸部症候群については、頸椎X線写真で限局性変化を認める症例でもそのほとんどが六ケ月以内に全治または亜全治となつていること、外傷後三ケ月以上を経ても症状が好転しない症例では、その多くのものが頸椎X線写真で変化を認めないし、またあつても軽度のものが多く、むしろその原因と考えられるところは自覚的痛みとそれに誘発させる血管運動神経を含む自律神経失調による悪循環の現象のように思われること、従つて三ケ月以上たつても全然働けないような場合は、もう一度X線検査、自律神経検査、精神科受診、メンタルテスト等を再検査して、理学療法や精神療法を行なつて、その間に復職への努力を繰り返えさせるようにし、六ケ月たつてもなお復職できず症状の多い場合には、○ 今まで以上に強力に復職へもつて行く努力をする。○ 転職させる。○ 症状固定として示談させて精神面に変化を与える。○ 手術的療法を検討する。のいずれかの療法が好結果を生むとの権威ある臨床研究例があることは、当裁判所に職務上顕著な事実である(諸富武文編「外傷性頸部症候群」(南江堂出版)二〇〇頁以下参照。)。
しかるところ、被控訴人の場合、事故当日の昭和四三年五月二日から入通院して治療を受けたが、症状は相当頑固でなかなか好転せず、昭和四五年六月一七日に至りようやく治癒とされていることは前記(一)に掲記の各証拠によつて認められるが、なお右証拠によれば、治療期間が二年余の長期に亘つているところ、この間昭和四三年七月九日から坪井整形外科病院に通院しているものであるが、同日から昭和四四年一月一五日までの一九一日間の診療実日数は四四日、同年一月一六日から同年一〇月一七日までの二七五日間の診療実日数は三四日、同年一〇月一八日から昭和四五年六月一七日(治癒日)までの二四三日間の診療実日数は一九日であり、その診療内容も一貫して注射と薬剤の投用のほか懸垂療法、低周波治療、マツサージ等の理学療法を行なつてきたものであることが認められ、右診療内容や治癒と診断された当時(受傷当時は不明)では頸椎X線写真で限局性変化がなかつたことが窺われること(前掲甲第一〇号証)及び前記認定の後遺症の程度に照すと、被控訴人の症状は前記の手術的療法の検討を要するほどのものではなかつたと推認されること、しかるに右診療期間中に前記のように有効適切な療法の一つとされている復職への努力がなされた形跡もないこと、それが通院を打切ると間もなく四日市市に転居してすぐ復職していること、治癒とされた当時における被控訴人の後遺症が前記認定の程度のものであること。以上の諸事実に照すと、被控訴人は受傷後の一年間は稼働しえなかつたものと認めるのが相当であるが、その後の治癒と診断されるまでの約一三・五ケ月間は全く稼働しえなかつたものとは認め難く、稼働しえなかつた割合は右期間を通じてせいぜい七〇%程度であつたと認めるのが相当であると考える。
そこで、被控訴人の月収金額について検討するに、被控訴人の主張の金額に副う前掲被控訴人本人尋問の結果はにわかに措信し難く、他に右主張の金額を確認しうる証拠はないので、当裁判所も被控訴人と同年令の男子労働者の平均賃金に準拠するのが相当であると考える。控訴人は右のような方法は不当であると主張するが、現実の休業損害を証拠により確定することが困難な場合、統計的数値を用いて算定することは、その方法及び内容が相当と認められる限り合理的なものとして許されるところというべきであつて、被控訴人の休業損害については右方法によるのが相当であると認められる。そして、被控訴人は本件事故当時満四一才であつたことが認められるところ、昭和四三年における四一才の男子労働者の平均月収が六万七、五〇〇円であること(賃金センサス第一巻第一表)は当裁判所に職務上顕著な事実であるから、右金額に基づき前記期間について被控訴人の休業損害を算定すると、金一四四万七、八七五円となることは計数上明らかであるから、被控訴人は同額の損害を被つたことになる。
67,500円×12ケ月=810,000円
(67,500円×13.5ケ月)×0.7=637,875円
810,000円+637,875円=1,447,875円
(四) 後遺症による逸失利益
後遺症による逸失利益は金七万五、三八六円であり、被控訴人は同額の損害を被つたものと認める。その理由は、原判決理由に説示のとおりであるから、これを引用する。
(五) 慰藉料
慰藉料については、当裁判所も、本件に現われた一切の事情を斟酌すると、被控訴人主張のような事情を勘案しても、金四〇万円をもつて相当と認める。従つて、この点に関する被控訴人の主張は採用することができない。
(六) 後遺症補償金の控除
右(二)ないし(四)の金額を合計すると、金一九六万七、六六一円となるが、被控訴人は自賠責保険から後遺症補償として金一一万円を受領したことを自認しているので、これを右金額から控除すれば、残額は金一八五万七、六六一円となる。
(七) 弁護士費用
被控訴人が本訴の提起追行を弁護士関口宗男に委任したことは本件記録上明らかであるところ、本件訴訟の難易、右認容額その他の事情を考慮すると、金一五万円をもつて相当因果関係のある弁護士費用の損害額と認める。
四 控訴人は本件損害賠償請求権は消滅時効によつて消滅していると主張するが、当裁判所も右主張は理由がないものと判断する。その理由は、次に付加するほかは、原判決理由に説示のとおりであるから、これを引用する。
本件事故による損害賠償請求権は一個であると解するのが相当であり、〔証拠略〕によれば、控訴人は昭和四四年一二月一九日頃に治療費の一部を支払つていることが認められるので、右支払によつて本件損害賠償債務を承認したものと認めるのが相当である。従つて、本件損害賠償請求権の消滅時効は同日中断したものというべく、その日から本訴提起の日まで三年を経過していないことは明らかである。
控訴人は、右治療費の支払は訴外服部のために立替払したものであつて、自己の本件損害賠償債務を承認したものではないと主張するが、本件事故は、前記のとおり、控訴会社の運転手訴外鈴木が乗客である被控訴人を乗車させて運行中、同訴外人の過失が一因となつて発生したものであること。〔証拠略〕によれば、被控訴人が本件訴訟を提起する前に友人に依頼して控訴人と示談交渉に当たつた際、控訴人側から被控訴人に対し本件事故による損害賠償金として一〇〇万円程度の支払案が提示されたことが窺われること等の事実に照すと、控訴人の右立替払の主張は容易に採用することができない。
五 そうすると、控訴人は被控訴人に対し、前記三項の(六)及び(七)の合計金二〇〇万七、六六一円及び弁護士費用を除く金一八五万七、六六一円については本件事故発生日の昭和四三年五月二日から、弁護士費用金一五万円については原判決言渡の翌日であること記録上明らかな昭和四八年九月六日から各支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
六 以上の次第であるから、右と結論を異にする原判決は、右認定の範囲で正当であるが、これを超える部分は失当である。よつて、控訴人の本件控訴は一部理由があるから、原判決を変更すべく、被控訴人の本件附帯控訴は失当として棄却することとし、民訴法三八六条、九六条、八九条、九二条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 奥村義雄 西川豊長 寺本栄一)
別紙図面
<省略>